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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)819号 判決

控訴人

有限会社毛利精穀研究所

右代表者

毛利勘太郎

代理人

藤井栄二

渡辺俶治

被控訴人

財団法人雑賀技術研究所

右代表者理事

雑賀慶二

訴訟代理人

宇津呂雄章

上田隆

森谷昌久

主文

一  原判決を取消す。

二  控訴人と被控訴人間の大津地方裁判所昭和四九年(ヨ)第三六号仮処分申請事件について、同裁判所が昭和四九年四月三〇日になした仮処分決定を認可する。

三  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

理由

一〈省略〉

二そこで、イ号製品が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうかについて判断する。

〈証拠〉によると、本件特許発明は昭和四〇年一一月二五日に出願され、昭和四六年四月三日に特許請求の範囲を「精穀機の排穀口に設けられた圧迫板に、開閉作用を伝達する連結杆を設けた精穀機において、電動機の電源を直接開閉するスイッチ、或は回路スイッチ等を前記連結杆及び圧迫板でもつて作動させ、間接的に電磁開閉器に連結せしめて、精穀機を自動的に停止させる様に成した事を特徴とする精穀機の自動停止装置」として特許出願公告されたが、控訴人からの特許異議の申立があつて、特許請求の範囲を原判決別紙特許権目録二記載のとおり昭和四七年一月一四日付で公告後の補正がなされ、昭和四八年六月二七日に登録、同年一〇月二六日に法六四条による公報の訂正公告がなされたものであることが認められるところ、控訴人は右補正は技術課題の変更であつて法六四条に違反するから、法四二条に基づき右補正前の明細書の記載の発明について特許がなされたものとみなされるべきであると主張するが、この点についての判断はしばらくおき、右補正後の本件特許発明の技術的範囲について検討する。

1  本件特許発明の特許請求の範囲、その実施例の構造及び配線図が原判決別紙特許権目録二及び三の各記載のとおりであり、本件特許発明の構成が申請の理由三(一)(1)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、また〈証拠〉によると、本件特許公報(公報の訂正公告を含む。)の発明の詳細な説明中に本件特許発明の作用として「本発明の実施例を図面に基づき説明すると、精穀機の電動機の起動は起動スイッチより電気回路を通じる事により行われ、精穀機の回転と同時にホッパーから流入する穀粒は、搗精され排穀口より圧迫板を開いて排出される。此の時、圧迫板の連結杆の先端で押えられて、切られていた回路スイッチは通じ、通電する事によつて、電磁石が作用して、電源と電動機の回路は直接継がれる事となるから、ここで起動スイッチを切つておく様にする。此の様にして、精穀機への給穀が終了して、排穀口から穀粒が排出されなくなつて、圧迫板が閉じられると同時に連結杆の先端で電磁石の回路スイッチをバネの力で押え、該回路を切るから電磁石が働かなくなつて、電源から電動機への回路は切れて、精穀機の運転を自動的に停止する。本発明は斯くの如く作用するものであるが、在来より精穀機と言うものは、機構上、停止中は圧迫板が、排穀口に圧着せられるのが常であり、従つて回路スイッチは当然OFFの状態になつたままである。そうなると次の運転の際には何らかの方法で回路スイッチをONの状態にする必要が生じる訳であるが、本発明は、回路スイッチを人為的に操作することなく回路スイッチをOFFの状態のままで別に電動機を起動せしめるスイッチ及び回路を設け、電動機の回転によつて流動する穀粒の排出作用によつて自動的に前記回路スイッチをONに切替えたる後、手動で起動スイッチをOFFにして回路スイッチのみを電気回路的に保持せしめ、搗精終了時まで運転を続行せしめるものである。」という記載のあることが認められる。

そして、〈証拠〉によると、本件特許発明には申請の理由に対する認否及び被控訴人の主張三記載のとおりの作用効果のあることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、控訴人は、本件特許発明は出願前から公知公用のものであり、当時の技術水準に照らして極めて容易に想到することのできる技術思想であるから新規性及び進歩性がない旨主張するので判断する。

(一)  〈証拠〉によると、控訴人は、昭和三八年初め頃、「モーリーモーターマスター」という名称を付した自動停止装置付精米機一〇台を製造してこれを公表し、そのうち一台を横浜市の有限会社相模屋長谷川商店に販売し、同商店はこれを公開して使用していたこと、「モーリーモーターマスター」は漏斗給穀口に設けられた山型弁(受圧板)の動きによつて作動するマイクロスイッチを設け、該マイクロスイッチと電源とを連結した電気回路内にタイマーを設け、該タイマーにより励磁回路内に設けたタイマー接点を開いて電磁開閉器の電磁石を失磁させ、電源から電動機に至る主回路の接点を開いて電動機を自動的に停止させるようにした精米機で、電動機を起動させるセレクトスイッチを設けたものである。「モーリーモーターマスター」の起動と自動停止装置の構造及び配線は別紙配線図のとおりであつて、その作用は、精米機の運転停止時には給穀口への米粒の落下がなく受圧板が上に上つていてマイクロスイッチがONの状態にあり、タイマーが荷電してタイマー接点が開いているので、① 起動する場合は、タイマー接点と並列に設けられているセレクトスイッチを起動に入れて(連結し)通電すると、励磁回路内の電磁石が励磁し、電源から電動機に至る主回路の接点が閉じて電動機が駆動し、米粒が給穀口に落下しはじめると、受圧板が下つてマイクロスイッチがOFFとなり、タイマーの電気が断たれてタイマー接点が閉じ、そのまま運転を継続することになり、② 自動停止させる場合は、タイマー接点が閉じた段階でセレクトスイッチを自動に移し(通電を断ち)、励磁回路をタイマー接点によつて保持させ、給穀口に落下する米粒がなくなると受圧板が上に上つてマイクロスイッチがONになり、タイマーが働いて一定時限後にタイマー接点が開き、電磁開閉器の電磁石が失磁して電源から電動機に至る主回路の接点が開き、電動機が自動的に停止するようになつていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  〈証拠〉によると、控訴人は、昭和四〇年三月頃「シングルモーリー10」という名称を付した警報装置付精米機を製造してこれを公表し、同年一〇月一五日株式会社茶谷米穀店に、同年一一月五日有限会社鵜澤米店にそれぞれ一台を販売し、右各商店はこれを公開して使用していたこと、「シングルモーリー10」は精米機の排穀口に設けられた圧迫板の開閉作用を伝達する連結杆を設け、該連結杆をもつて作動するマイクロスイッチを設け、該マイクロスイッチに警報ブザーを連結した警報用電気回路を設けて警報を発するようにした精米機で、搗精終了等により精米機の排穀口から米粒が排出しなくなつて圧迫板が閉じたときに、圧迫板に設けられた連結杆の作用によりマイクロスイッチがONとなり、これにより警報ブザーが鳴り、作業者が人為で運転を停止するようにしたものである。なお「シングルモーリー10」にはマイクロスイッチの回路とは関係なく、電磁開閉器を用いた起動及び停止の各スイッチが設けられていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  〈証拠〉によると、控訴人は昭和四〇年六月一〇日に控訴人の考案につき実用新案登録の出願(登録請求の範囲は申請の理由三(一)(2)(イ)記載のとおり)をしたが、特許庁は昭和四三年一〇月二三日に控訴人の考案が昭和九年実用新案出願公告第一六〇三五号公報に記載された考案であるとして拒否査定をしたこと、右公報には登録請求の範囲として「(精米機の)排出口胴の端部に筒杆内に阻止杆を左右に摺動し得る様螺杆に依り取付けて成る蓋の全閉阻止装置を設け該装置及蓋を介して電源より電鈴電燈に通ずる警報回路を設けて成る精米機に於ける排出口の蓋全閉阻止警報装置の構造」という記載のあることが認められる。

(四)  以上の認定によると、「モーリーモーターマスター」及び「シングルモーリー10」は本件特許出願前に日本国内において公知、公用されていたものであり、また昭和九年実用新案出願公告第一六〇三五号の考案は本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案といえるけれども、控訴人の考案は実用新案の登録出願をし、拒絶査定を受けた事実のみによつて公知となつたとはいい難い。

そこで先ず、本件特許発明の構成要件と「モーリーモーターマスター」の構造とを比較する。

(ア) 「モーリーモーターマスター」は精米機の給穀口の山型弁の動きによつて作動するマイクロスイッチを設けたものであり、本件特許発明の構成要件(ア)及び(イ)とは異なる。

(イ) 「モーリーモーターマスター」の構造のうち本件特許発明の構成要件(ウ)に対応する部分は、マイクロスイッチ(回路スイッチと同視できる。)と電源とを連結した電気回路内にタイマーを置き、該タイマーにより励磁回路内に設けたタイマー接点を開いて電磁開閉器の電磁石を失磁させ、電源から電動機に至る主回路の接点を開いて精米機の電動機を自動的に停止させるものであり、一方、本件特許発明の構成要件(ウ)は、本件特許公報の発明の詳細な説明中の前記記載と合わせて検討すると、回路スイッチと電磁開閉器の電磁石とが電気回路によつて連結されていて、回路スイッチの働きにより電磁開閉器の電磁石が失磁し、そのため電源から電動機に至る主回路の接点が開き電動機を自動的に停止するようにしたものと解されるから、本件特許発明の構成要件(ウ)と「モーリーモーターマスター」の右の構造とは実質的に同一の構成といえる。

(ウ) 「モーリーモーターマスター」の構造のうち本件特許発明の構成要件(エ)に対応する部分はタイマー接点と並列にセレクトスイッチを設けたことであつて、精米機を自動停止させたときは、マイクロスイッチの作動によりタイマー接点が開きそのままでは起動できないので、タイマー接点と並列に設けたセレクトスイッチを起動に(連結)して、通電し、電磁開閉器の電磁石を励磁して電源から電動機に至る主回路の接点を閉じ起動できるようにしたものであり、一方、本件特許発明の構成要件(エ)は、本件特許公報の発明の詳細な説明中の前記記載からすると、精米機を自動停止させたときは、回路スイッチの作動により電磁開閉器の電磁石が失磁し電源から電動機に至る主回路の接点が開きそのままでは起動できないので、回路スイッチを操作することなく(実施例では回路スイッチを操作しても起動できない。)、別個に電磁開閉器の電磁石を励磁させて電源から電動機に至る主回路の接点を閉ざす起動スイッチを設けたものと解されるので、「モーリーモーターマスター」のセレクトスイッチは本件特許発明の構成要件の起動スイッチに該当し、本件特許発明の構成要件(エ)と「モーリーモーターマスター」の右の構造とは実質的に同一の構成といえる。

従つて、「モーリーモーターマスター」は本件特許発明の構成要件(ア)、(イ)の構成を具備せず、(ウ)、(エ)の構成を具有するものである。

次に、本件特許発明の構成要件と「シングルモーリー10」の構造とを比較すると、「シングルモーリー10」は本件特許発明の構成要件(ア)(イ)の構成を具有するものであるが、同(ウ)の構成はなく、また、マイクロスイッチとは別に起動スイッチを設けているにしても、精米機の自動停止装置の起動に関するものではないから、本件特許発明の構成要件(エ)とは構成が異なる。

そうすると、「モーリーモーターマスター」及び「シングルモーリー10」の構造はいずれも本件特許発明の構成要件すべてを具備するものではないが、「モーリーモーターマスター」は本件特許発明の構成要件(ウ)、(エ)の構成を、「シングルモーリー10」は本件特許発明の構成要件(ア)、(イ)の構成をそれぞれ備えるもので、本件特許発明の構成要件(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)の構成は、その組合わせはともかくとして本件特許出願前において公知公用されていたものというべきである。

(五)  ところで、複数の公知の技術的事項を結合することによつて顕著な作用効果が認められ、その組合わせに高度な技術的思想の創作が成立する場合には進歩性や新規性があり公知公用とはいえないところ、本件特許発明の出願前において、本件特許発明の構成要件(ア)、(イ)の構成を有する精穀(米)機は「シングルモーリー10」によつて公知であり、同(ウ)、(エ)の構成を有する精穀(米)機は「モーリーモーターマスター」によつて公知であつたことは先に認定したとおりであるから、本件特許発明の構成要件(ア)、(イ)と同(ウ)、(エ)の構成とを組合わせることに高度な技術的思想の創作性があるかどうかについて検討するに、本件特許発明の(ア)、(イ)の構成は精穀機の排穀口より排穀しなくなつたことを回路スイッチにより電気信号として検知する装置であり、「シングルモーリー10」及び昭和九年実用新案出願公告第一六〇三五号の考案はこの電気信号により警報ベルを鳴らすようにした精米機であるが、一般に安全装置として電動機を停止することは慣用手段であり、また、〈証拠〉によると、本件特許発明の出願前において、電磁開閉器を利用して駆動電動機を自動停止させることは公知公用の技術であり、自動制御機器の電動機を起動する起動スイッチを設けることは通常の手段であつたことが認められるから、公知技術である「モーリーモーターマスター」に用いられている本件特許発明の構成要件(ウ)、(エ)の構成を利用することは、精穀(米)機製造に関する技術の分野における通常の知識を有する者であれば容易に思い付く技術思想であると認めるのが相当である。

そうすると、本件特許発明は、新規性及び進歩性を欠くことになり、実質的な技術的範囲を有しないことにはなるが、登録された権利として存在している以上、これを無効として扱うことができないから、本件特許権の技術的範囲は、本件特許の特許公報(公報の訂正公告を含む。)に記載されている字義のとおりの内容を有し、その実施例として記載されたものと一致する対象に限られるものとして最も狭く解するのが相当である。

(六)  そこで、本件特許発明の特許公報(公報の訂正公告を含む。)の記載とイ号製品とを比較することとする。

本件特許発明の特許公報中の特許請求の範囲の記載、実施例の構造及び配線図は原判決別紙特許権目録二、三の各記載のとおりであることは先に認定したとおりであるところ、〈証拠〉によれば、本件特許発明の特許公報(公報の訂正公告を含む。)に記載の実施例では、回路スイッチの電気回路は電磁開閉器を中心として電動機側からとつて電磁開閉器の電磁石と連結し、電動機を起動する起動スイッチを回路スイッチの電気回路と関係なく、主回路の電磁開閉器と並列にした別回路に設けていることが認められる。なお、実施例の起動及び自動停止の方法の説明は前記二1記載のとおりである。

これに対し、イ号製品は申請の理由3(一)(4)記載のとおりの構造を有することは当事者間に争いがなく、右の事実と原審証人毛利栄吉の証言によると、イ号製品は、電磁開閉器を中心として電源側にマイクロスイッチの電気回路をとり、その回路内にタイマーを置き、別に設けた励磁回路内に該タイマーのタイマー接点と並列に手動、自動のセレクトスイッチを、電磁開閉器の余剰接点である自己保持接点と並列に押ボタンスイッチをそれぞれ設けたものであること、イ号製品の起動及び自動停止の要領は、精米機の運転停止時には排穀口に米粒の排穀がなく、マイクロスイッチがONの状態になつており、タイマーが荷電してタイマー接点が開いているので、① 起動する場合は、タイマー接点と並列に設けられているセレクトスイッチを起動にし、押ボタンスイッチを押して通電すると、励磁回路内の電磁石が励磁し、電源から電動機に至る主回路の接点が閉じて電動機が駆動し、自己保持接点が閉じるので押ボタンスイッチを離し、米粒が排穀口から排出しはじめるとマイクロスイッチがOFFとなり、タイマーの電気が断たれてタイマー接点が閉じそのまま運転を継続することになり、② 自動停止させる場合は、タイマー接点が閉じた段階でセレクトスイッチを自動に移し、励磁回路をタイマー接点によつて保持させ、排穀口に排出する米粒がなくなるとマイクロスイッチがONになり、タイマーが動いて一定時限後にタイマー接点が開き、電磁開閉器の電磁石が失磁して電源から電動機に至る主回路の接点が開き、電動機が自動的に停止するようになつたもので、モーリーモーターマスターと殆んど同じであることが認められる。

右認定の事実からすると、イ号製品は、本件特許発明の実施例とは、回路スイッチの電気回路のとり方、起動スイッチ(セレクトスイッチ及び押ボタンスイッチ)の位置等構成の異なることが明らかであるから、本件特許発明の技術的範囲に属しないものといわなければならない。

三1  ところで、申請の理由2(一)(三)の各事実及び同(二)のうち被控訴人が控訴人の顧客らに回答を強要したことを除きその余の事実は当事者間に争いがないところ、右の事実によれば、イ号製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないのに本件特許発明に抵触することを前提として控訴人の顧客らに警告したもので、その行為は不正競争防止法一条一項六号にいう他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述流布する行為に該当し、かつその行為によつて控訴人の営業上の利益が害せられる虞のあることはその警告内容からして明らかである。

2  申請の理由一の事実、被控訴人が特許権、実用新案権を基本財産として設立認可された財団法人で、現在精米機、精穀機に関する特許権、実用新案権、意匠権等を所有し、これらにつき専ら東洋精米機製作所のために専用実施権を設定若しくは通常実施権を許諾し、本件特許権についても専用実施権を設定して実施料を得ており、東洋精米機製作所が本件特許発明の実施品として東洋コントロール精米機と称する精米機を製造、販売していること、被控訴人の代表者理事雑賀慶二と東洋精米機製作所の代表取締役雑賀和夫とが兄弟であり、本件特許発明者である田中昌吉が東洋精米機製作所の取締役であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、東洋精米機製作所は主として被控訴人若しくはその理事である雑賀慶二が発明した精穀機器を製品化して製造販売している会社であり、その製品を発売する場合には東洋精米機製作所、被控訴人が共同して説明会等を開き、東洋精米機製作所の製品販売の特約店契約等を結ぶ場合にも右両者が共同してその衝に当つていることが認められ、右認定の事実によれば、被控訴人と東洋精米機製作所は特許権者とその実施権者という関係を超えて共同して共通の利益の拡大を図つているもので、実質的には同一の立場にあり、従つて被控訴人は控訴人とは不正競争防止法一条一項六号の競争関係にあるものというべきである。

3  そして、右認定の事実に〈証拠〉によれば、控訴人は被控訴人によつて将来においても右のような虚偽の事実を陳述流布されることにより営業上の信用を害され、これを放置すると回復し難い損害を被る虞のあることが認められる。

そうすると、控訴人が被控訴人に対し不正競争行為の差止請求権に基づく妨害排除を請求するに先立ちなした本件仮処分申請(大津地方裁判所昭和四九年(ヨ)第三六号事件)は正当として認容すべきであつて、同裁判所が控訴人に二〇〇万円の保証を立てさせたうえ昭和四九年四月三〇日になした「被控訴人は文書または口頭で控訴人の製造販売するイ号製品が本件特許権を侵害し、または侵害するおそれがある旨陳述したり、流布したりしてはならない。」との本件仮処分決定はこれを認可すべきである。

四よつて、右判断と結論を異にする原判決は相当ではなく、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取消して本件仮処分決定を認可することと〈し〉、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官仲西二郎 裁判官長谷喜仁 裁判官下村浩蔵)

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